ウェブサイトの写真では、青い釉薬がカップの下のほうで止まり、その下に黒い素地がぐるりと見えています。ところが届いたカップを見ると、青がもう少し下まで流れ、黒い素地の上に丸いしずくが残っていることがあります。
「これは焼成に失敗したもの?」と思うのも無理はありません。
9月末から出荷が徐々に増えたあと、このことをお客様から尋ねられました。その気持ちはよくわかります。私たちも陶芸に触れる前は、こうした見た目を不良だと思っていました。自分たちでカップを焼くようになって、あのしずくがどう残るのかを少しずつ理解し、釉薬の試作では、もう一度作ってみたいと考えるようにもなりました。
ただ、思うほど簡単にはいきませんでした。
私たちは、涙のように垂れてカップの側面に固まった釉薬を、普段「釉淚」と呼んでいます。カップの表情のひとつになることもありますが、しずくがどこで止まったか、窯の棚板に触れたか、焼き上がったカップに傷みがないかは、それぞれ分けて見る必要があります。その点を確かめてから好きかどうかを考えるほうが、「手作りだから」という言葉だけで片づけるよりも納得できるはずです。

黒い素地の上のしずくは、釉薬が流れた跡
Sharing Cupは側面の上部に釉薬の色が現れ、下部には黒い素地の質感を残しています。写真では、その境目はあらかじめ引かれた線のように見えます。でも、釉薬をかけ終えたときの境目が、そのまま焼き上がりの姿になるわけではありません。
釉薬は本焼きの間に反応し、少しずつ流動できる溶融物になります。垂直に立つカップの側面では、重力によって下へ流れることがあります。冷えると、その流れが残した形が固まります。詳しくは、Digitalfireの釉薬の溶融と流動性についての解説を参照できます。
つまり、青いしずくは上の釉薬から流れてきたもので、下の黒い素地が溶けたものではありません。
どこまで流れるかには、釉薬の組成、かけた厚さ、焼成温度や時間が関わります。流れやすい釉薬では、一部を少し厚くかけただけで、きれいに収まっていた境目がさらに下がることもあります。ただ、写真1枚だけを見て、そのカップは釉薬が厚すぎた、あるいは焼きすぎたと断定することはできません。釉薬の流れに関する技術資料でも、作り手が繰り返し調整する必要のある点として説明されています。
ちょうど止まるか、もう少し流れるか。窯から出すと大きな違いに
今回の小さなカップのひとつは、釉薬のしずくが黒い素地の上で止まり、先端が丸くなっていました。底までは流れていません。手に取ると、その小さなふくらみは、たしかにカップに掛かった涙のように見えます。

別の接写では、釉薬がさらに下まで流れた様子が見えます。今回の製作記録によると、先端の白い部分は、釉薬が窯の棚板に触れたあとに残った跡です。
棚板は、窯の中でカップを載せる耐火性の板です。釉薬がそこまで流れると、カップがくっついてしまうことがあります。取り外すときに付着物が残ったり、欠けたりする可能性もあります。陶芸について執筆するJohn Brittによる棚板の保護剤についての記事は、こうした釉薬の流れなどに対処するためのものです。窯用品の販売元も、釉薬が棚板にくっつく問題を説明しています。

この2枚を並べると、違いが見えやすくなります。一方は釉薬が止まってできた形、もう一方は棚板に触れたあとの状態も関わっています。どちらも「釉淚」と呼ぶだけでは、十分な説明にはなりません。
手元のカップについて、私たちに相談したほうがよいか迷ったら、まずどの状態に当たるかを見てください。
- 見た目に釉薬のしずくがあり、それが何なのか知りたい場合:カップ全体としずくの接写を撮っていただければ、位置や形を一緒に確認できます。
- しずくに鋭い部分、ぐらつく部分、剥がれている部分がある、カップにひびや漏れがある、または底が平らに置けない場合:使用を中止し、そのままの状態で私たちにご連絡ください。自分でたたき落としたり、削って平らにしたりしないでください。
- 上のような状態はないけれど、流れた見た目が好みではない場合:そのことも、どうぞ率直にお伝えください。好みを伝えるために、まず不良だと証明する必要はありません。
写真は見た目を伝える助けになりますが、それだけで食品に触れる器としての安全性を判断することはできません。気になる点のあるカップは、実物の状態を確認する必要があります。
気に入っているなら、なぜすべてのカップにしずくを作らないの?
私たちも、そう考えたことがあります。
釉薬の試作で、あの丸い先端をもう一度作ろうとしたことがありました。ところが、釉薬の量が少し増えると、「同じしずくがもっときれいになる」とは限りません。さらに遠くまで流れ、最後には棚板にくっついてしまうことがよくありました。残したかった小さなしずくと、対処が必要になる釉薬の流れ。その違いが、このわずかな距離にあることもあります。

難しいのは、窯に入れる前なら釉薬の量を調整できても、高温で焼き始めたあとは、絵を描くときのようにはいかないことです。流れすぎそうだと気づいても、手を伸ばして余分な釉薬を拭うことはできません。もちろん、しずくひとつを救うために高温の窯を開けるわけにもいきません。そのとき先に心配するべきなのは、カップを作っている人のほうでしょう。
だから、次の試し焼きで作り方を調整します。この形を再現する試みは、今も続いています。
これまで私たちが窯出しをしてきた中でも、あの小さなカップのように丸く、ちょうどよいところで止まったしずくは、たしかにあまり見かけません。ただ、カップを1点ずつ数えて出現割合を記録しているわけではありませんし、珍しいからといって、そのカップがほかより優れているとも限りません。ついもう一度見たくなるのは、作り手も毎回同じ場所で止められるわけではないからです。
仕組みがわかっても、しずくのないカップを好きでいていい
正直に言うと、私たちも最初はしずくのないものを好んでいました。釉薬と黒い素地がそれぞれの位置に収まり、境目が整っていると、見ていて気持ちがよかったのです。その後、窯から出てくるさまざまな表情を見て、思いどおりにならない縁にも魅力を感じるようになりました。
でも、好みは変わってもいいし、変わらなくてもいい。
流れた釉薬の模様を特に好むお客様もいれば、黒い素地の部分がそのまま残っているほうを望むお客様もいます。どちらも自然な選択です。届いたSharing Cupのしずくが好みに合わないと感じたら、しずくのないものへの交換をご相談ください。
この製作記録をまとめた時点では、追加料金でしずくを付けるサービスや、しずくの形を指定するサービスは行っていません。同じ形のしずくがあるカップをご希望でも、今のところ写真を、毎回再現できるオーダーメイドの見本としてお使いいただくことはできません。

今回写真を公開したのは、カップが届く前に、どんな見た目のものがあるのかを少し知っていただきたかったからです。泥しょうから窯出しまでの過程も気になったら、Sharing Cupの製作記録をお読みください。カップを選ぶ際は、好みの見た目を私たちにお伝えいただき、Sharing Cupシリーズで自分に合う形をご覧ください。
夜に写真を何枚か、気軽に紹介するだけのつもりが、また長い話になりました。しずくの実験は次の窯に持ち越して、明日もカップの削りを続けます。











